***The beginning4***


「はあ…」
テロ対策課の部屋から出たルヴァはため息をついた。
事件から一晩が明けて、ある程度の処理が済んだ後、ヴィルセットに呼び出されたルヴァは一時間ほど小言を言われ続けた。
最終的に課せられたのはもちろん「始末書を書く」ことだ。
しかも「一秒分でも記述を抜かすな」とまで釘を刺された。
ルヴァは重い足取りでリノがいる第5科学室に向かう。

今朝オルフィレーネから来たメールには、リノに生体的な損傷はなく、コンピューターの方も若干の損傷はあったものの、再構成は終わっており、そのうち目を覚ますだろう、と書かれていた。

目の前に現れた科学室の扉を開ける。
オルフィレーネはいなかった。
カーテンで仕切られた中から微かに物音がする。
「リノ?」
ルヴァが呼びかけると、パタパタと音がしてカーテンが開き、中からリノが出てきてルヴァに抱きついた。
「ルヴァ!!」
「リノ、もう平気なのか?」
リノを抱きとめてルヴァは尋ねた。
「うん。リノもイオちゃんも大丈夫だよ」
リノは顔を上げて微笑む。
ルヴァはリノの流れるような金の髪を撫でながら言った。
「ごめん、俺のせいで…」
「ルヴァのせいじゃないよ、謝らないで」
「でも…」
「でも、じゃないもん。それ以上言ったら……イオちゃんにお盆で叩いてもらう!」
ちょっと悩んで何とも言えない罰を提案したリノにルヴァは思わず笑ってしまった。
「そんなこと言うとまた、イオに怒られるぞ」
「うん、もう怒られてる」
そう言って笑うリノに、ルヴァも笑いながら額をくっつけた。
リノが瞳を閉じる。
ルヴァはそっとリノにキスをした。
顔を離すと、リノは恥ずかしそうにルヴァの胸に顔を埋めた。
そこへ、
「やだー若いっていいわねー」
いつの間にか戸口に立っていたオルフィレーネが声をかけた。
二人は慌てて離れる。
「い、いつからいたんですか…」
「まあまあいつからでも良いじゃない」
ルヴァの問いに笑いながら答えたオルフィレーネは、顔を真っ赤にして立っているリノの頬をつついた。
「それに元気になったみたいだし、よかったよかった」
と言って今度はその頬をつねる。
「い、痛い!」
「それにしてもあんたね、携帯くらい持ち歩きなさいよ」
頬をおさえて少し涙ぐみながらリノはごめんなさい、と小さな声で言った。
オルフィレーネはルヴァに向き直って言う。
「あんたもさっさと始末書書かないとまた怒られるわよ」
「はいはい、わかってますよ…」
ルヴァは投げやりに答えて、行くぞ、とリノの手を取った。
それはまるで以前と変わらないように、すべて元通りのように、誰の目にも見えていた。


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