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ルーナが手元の機械の電源を入れた途端、リノは顔を歪め、悲鳴をあげた。
恐らく、普通の人間の脳では認識できない音波をリノのもう一つの脳が拾っているのだろう。
このままではリノは壊れてしまう。
ルヴァはもう一度、銃口をルーナへ向けた。
ただ、彼女が不法侵入者である以上、今はまだ殺すわけにはいかない。
とすれば、ルヴァがとる道は一つだった。
ルヴァは比較的小さな、それでも的にするには十分な一点を狙い、引き金を引いた。
パンッと軽い音がして、ルーナの手ごとスピーカーが弾け飛んだ。
リノが床に崩れ落ちる。
「リノ!!」
ルヴァはリノの元へ駆け寄り、細い、小さな体を抱き起こした。
気を失っていたが、脈も呼吸も取り合えずば正常だった。
が、安心したのもつかの間、不気味な笑い声にルヴァの背筋が凍った。
「あはは、あははははははっ」
足を撃ち抜かれ、手を弾き飛ばされ、それでも笑うだけのルーナは同じ人間のようには見えなかった。
ルヴァは殺気に満ちた目でルーナを睨み、銃を向けた。
ただ、彼の10年ほどの訓練や任務で培われた理性が、辛うじて引き金を引くのを止めていた。
ルーナはひたすら笑いながら、ふらつく足取りでルヴァに近づき、無事な方の手で、ルヴァの銃を掴んだ。
「しまっ…」
彼女の意図をルヴァが理解したときにはもう、手遅れだった。
「Farewell...」
ルーナは銃口を自らの胸へ向け、引き金を引いた。


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