『ブレスレットが、なんとか言ってましたが…』
「ねえ、そう言えばさ、」
同じことを思ったのだろうか、オルフィレーネが尋ねてきた。
「そのブレスレット、外さないわよね。何で?」
リノはカップを置き、ブレスレットを見つめる。
「小さい頃は外れたんだけど、なんか気づいたらとれなくなっちゃってたの。
無理やり外したら壊れちゃいそうだからやだなーって」
リノの言葉にオルフィレーネは少し笑って言った。
「紐変えれば良いじゃないの」
「そうだけど…。
でも…なんて言うのかな…、もったいない気がして…。
…お父さんがくれたものだから」
まだまともだった頃に、と付け足すように呟いて、リノはブレスレットを撫でた。
とても愛おしそうに、でもそれでいて、どこか悲しげでもあった。
そんなリノを見て、オルフィレーネは何も言わなかった。
と、突然リノが立ち上がった。
「どこか行くの?」
オルフィレーネの問いにリノはドアを見つめて答える。
「んーなんかよくわかんないけど、イオちゃんが行きたいとこあるからって」
「あらそう、いってらっしゃい」
リノが外へ出ようと扉に手をかけると、ああそうだ、とオルフィレーネが言った。
「色々心配だから、明後日ちゃんとみてもらうわ」
「え?誰に?」
リノのことを一番わかっているはずのオルフィレーネが、リノのことを他人にみてもらうなど今まで一度としてなかった。
オルフィレーネは少しだけ考えるようにして言った。
「コンピューターの専門家、かな?
昔ここにいた人よ」
オルフィレーネはそれだけ告げるとリノに背を向けた。
一瞬寂しそうな顔をしたように見えたが、それはリノの気のせいかもしれなかった。